日本で学ぶ理系留学生は、なぜ日本で働きにくいのか。「SCIENCE HIVE 2026」で見えた国内就職の壁と可能性
研究者やビジネスリーダーが集い、研究開発、産業、グローバル人材などをテーマに議論を交わすイベント「SCIENCE HIVE 2026」が、2026年3月12日、湯島天満宮で開催されました。
当日は、研究開発、産業、グローバル人材などをテーマとした6つのセッションが行われました。今回は、その中からLabBaseのHead of LabBase Asia 宮崎航一氏がモデレーターを務めたセッション「理工系修士・博士留学生の就職・採用の課題と展望」の内容をレポートします。
タイトルは「日本はなぜ、世界から集めた『宝の持ち腐れ』を放置するのか?」。少し強い問いかけにも見えますが、実際に議論を聞いてみると、日本で学ぶ優秀な理系留学生が、日本での就職を希望しながらも国内で活躍する機会を得られず、結果として国外へ進んでしまう構造的な問題が浮かび上がってきました。
日本で学びたい、でも日本で働きにくい。そのギャップはどこにあるのか
セッションではまず、日本がいま置かれている状況について共有がありました。少子化が進むなか、日本では高度専門人材の確保がますます重要になっています。特に理工系分野では、大学院で専門性を高めた人材や海外からの留学生など、先端分野を担う人材を産業界でどう活かしていくかが大きなテーマになっています。
一方で、日本に留学している優秀な人材のなかには、日本での就職を望みながらも、国内でキャリアを築くことができず、国外就職を選ぶケースも少なくありません。セッションでは、こうした現状の背景に何があるのか、そして今後どうすれば日本社会の中で活躍できる仕組みをつくれるのかが議論されました。
留学生はなぜ日本を選ぶのか

このセッションでまず印象に残ったのは、「そもそも優秀な理系留学生は、なぜ日本を留学先に選んでいるのか」という視点です。
登壇者の一人である東京都立大学大学院博士課程の留学生、SYADZA ATIKA RAHMAH氏は、日本の研究力や技術力への信頼に加え、日本文化への関心も、日本を選ぶ理由の一つだと語りました。日本は研究先としても生活の場としても魅力を持っており、留学生たちは決して“仕方なく”来ているわけではありません。
だからこそ、日本で学んだあと、そのまま日本で働きたいと考える留学生が多いのは自然なこと。にもかかわらず、就職の段階になると日本ではなく国外を選ばざるを得ない現実がある。そのギャップが、このセッションの中心テーマでした。
日本語と就活文化が、研究と両立しづらい
SYADZA氏が実体験として語ったのは、研究活動と並行して日本語を学ぶことの難しさ、そして日本特有の就職活動文化への適応の難しさでした。
理系の修士・博士課程では、日々の研究そのものが非常に忙しく、日本語学習にまとまった時間を割くことが簡単ではありません。加えて、日本の就職活動には独特の時期感や進め方があり、研究優先で日々を過ごす大学院生にとっては、そのスケジュールに合わせること自体が大きな負担になります。
日本で研究を続け、日本でキャリアを築きたいと思っていても、その途中にあるハードルが高い。この構造は、本人の努力だけでは乗り越えにくいものです。
受け入れる企業側にも壁がある

奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)で留学生を含む大学院生のキャリア支援を担当する谷口直也氏は、学生側だけでなく、企業側にも課題があると指摘しました。
企業には、英語で活躍できる高度人材を採用したいというニーズがあります。その一方で、採用プロセスや受け入れ体制、文化的・宗教的配慮への不安などが障壁となり、採用に踏み切れないケースがあるといいます。
この話で印象的だったのは、「制度を整えること」だけでなく、「どの程度の配慮が必要なのかを含めて、対話を通じて相互理解を深めること」が重要だと語られていた点です。外国人材受け入れというと、企業側が過度に構えてしまう場面も少なくありませんが、実際には一律の答えがあるわけではなく、個別に理解を深めていくことが欠かせないという指摘には納得感がありました。
さらに谷口氏は、こうした取り組みを現場レベルの工夫だけで終わらせず、経営層が中長期の視点で重要性を認識し、推進していくことが必要だと強調しました。
大学・企業・学生が一緒に考える必要がある
モデレーターを務めた宮崎氏は、こうした課題に対応するには、大学・企業・学生が連携し、それぞれの立場から受け入れ環境や支援体制を考え、整えていくことが重要だと話しました。
留学生本人の努力だけに課題を押しつけるのではなく、大学の支援、企業の採用設計、日本社会側の受け止め方まで含めて、複数の主体が一緒に考えなければ解決しない問題です。
“優秀な人がいるのに採れない”のではなく、“採れて活躍できる仕組みがまだ十分に整っていない”。そんな構造的な課題が、このセッションではかなり具体的に言語化されていました
2026年から始まる新しい取り組み

セッションの最後には、LabBaseとNAISTが連携して2026年より始める予定の新しいプログラム「NAIST Bridge Program」についても紹介がありました。
この取り組みでは、外国人留学生を対象に、企業とのマッチング支援を行うだけでなく、内定後に短期間でビジネスレベルの日本語教育や、日本企業で働くためのビジネスマナー教育を提供することを想定。その教育費用は内定先企業の経済的サポートを前提として設計されている点が特徴的でした。
これまでの日本の就職支援では、「先に日本語ができること」が暗黙の前提になりがちでしたが、このプログラムは、まず企業との接点をつくり、その後に就業に必要な日本語やビジネスマナーを集中的に身につけるという発想です。研究に集中してきた理系留学生にとっては、現実的な選択肢になり得る魅力的な仕組みです。
今後はNAISTでの取り組みをモデルケースとして、国内の他大学への展開も視野に入れているそう。日本で学んだ優秀な留学生が、日本で活躍できる流れをどうつくるか。その実践例として、今後注目したい動きの一つです。
「宝の持ち腐れ」にしないために
今回のセッションで強く感じたのは、日本に来る理系留学生は、もともと日本に対して一定の関心や信頼を持っているということです。研究力や技術力、日本文化への親和性があり、学ぶ場として日本を選んでいる。にもかかわらず、就職の段階でその人材が日本社会から離れてしまうのだとしたら、それは本人だけの問題ではなく、仕組みの問題でもあります。
「宝の持ち腐れ」という言葉は刺激的ですが、この日の議論を聞くと、それは決して大げさな表現ではないように思えました。人材不足が深刻化するなかで、高度専門人材をどう迎え入れ、どう活躍につなげるかは、日本社会にとって避けて通れないテーマです。
SCIENCE HIVE 2026のこのセッションは、その課題を当事者、大学、支援事業者の視点から立体的に捉え直す機会になっていました。単なる問題提起で終わらず、具体的な取り組みの話まで出ていた点も含めて、非常に示唆の多い時間だったと思います。
【株式会社LabBase概要】
「研究の力を、人類の力に。」をパーパスに掲げ、研究エンパワープラットフォーム「LabBase」を運営。理系学生と企業を結ぶスカウトサービス「LabBase就職」や、研究者・技術者のキャリア支援サービス「LabBase転職」などを通じ、科学技術の発展と社会実装を加速させる事業を展開しています。
会社名 :株式会社LabBase
代表者 :代表取締役CEO 加茂倫明
設 立 :2016年9月23日 資本金 :779,914 千円 (資本準備金含む)
所在地 :〒105-0003 東京都港区西新橋一丁目1番1号日比谷フォートタワー10F
コーポレートサイト:https://labbase.co.jp/
【SCIENCE HIVE 2026】
公式ページ:https://science-hive.com


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