”地球を傷つけない食べ物”って何? これからの食選びの新基準、「クリーンフード」
世界の人口は増え続け、そう遠くない将来に人口に対して食糧が不足することが懸念されています。また、従来の食料の大量生産によって起こる環境破壊や動物の乱獲、非人道的な環境での動物の繁殖など、地球と生命体に過度な犠牲を強いていることも問題視されています。
その中で、近年注目されてきている、「クリーンフード」という概念。
近年主流である、”健康によいものを摂りたい”というヘルシー指向のみならず、海外では、なおかつその食品の生産過程が“クリーンであるか”を食品選びの基準にする人が増えています。
クリーンな生産過程とは、作られる過程で地球環境や動物たちに過度な負担を与えない、その食品を摂ることでより地球の未来を良くすることに繋がるということ。
クリーンミートやユーグレナといった、世界で注目されている「クリーンフード」トレンドについて、パーパス・ブランディングを専門とするエスエムオー株式会社 代表取締役 齊藤三希子さんに伺いました。
パーパス・ブランディング コンサルタント 齊藤三希子さん
エスエムオー株式会社代表取締役。ブランディングコンサルタント。
株式会社電通に入社後、電通総研への出向を経て、2005年に株式会社齊藤三希子事務所(後にエスエムオー株式会社に社名変更)を設立。企業の存在理由である「パーパス」を軸に全てのアクションを行い、社内外にそのパーパスを浸透させることで一貫したブランディングを行い、ブレない強い組織を作る「パーパス・ブランディング」に10年以上取り組んでいる。株式会社バルカー社外取締役。慶應義塾大学経済学部卒業。
♥パーパス・ブランディングの日本企業向け教科書とも呼べる新著「パーパス・ブランディング ~「何をやるか?」ではなく、「なぜやるか?」から考える」が2021年7月に発売。
タンパク質危機 (global protein crisis)がやってくる!
全世界の人口は現在77億9500万人ですが、国連の調査によると、2030年には約85億人、2050年にはおよそ100億人に到達すると予測されています。人口の増加と世界的な食生活の欧米化(肉食化)が、肉の受給バランスを崩す「タンパク質危機 (global protein crisis)」が懸念されています。人間にとって不可欠なタンパク源をどうサステナブルに摂取していくかが大きな課題となっているのです。
森林破壊と家畜から発生するガスが地球温暖化につながる
現在の畜産方法においては、大量の穀物をエサとして消費し、畜産のための森林破壊も進んでしまいます。また家畜から発生する温室効果ガス(Greenhouse Gas)は、地球全体の発生量の14.5%を占めるとも言われ、現状のタンパク源の確保の仕方はサステナブルとはいえません。
食品ごとの1kgのタンパク質を生産する際に排出される温室効果ガスの量を比較すると、牛肉がもっとも高く、エビ、牛乳、豚肉、鶏卵、魚、鶏肉、コーン、大豆、ユーグレナ(藻類)の順に低くなっていくという調査結果があります。
畜産に依存しないタンパク源の確保、どうする?
すなわち、畜産に依存しないタンパク源の確保が、温室効果ガス削減の一助になると言えるのです。
その中で、世界的にも大豆食が推奨されたり、大豆やほかの植物を原料に肉を模したフェイクミートなどの製品も生まれています。また、微細藻類(マイクロアルジェ)を食品として取り入れるという動きも活発化。
とはいえ、牛肉をはじめとする家畜の肉は良質、かつ、ボリュームの摂れるタンパク源。この肉自体を畜産ではない手法で”培養”する、培養肉の技術研究も進んでいます。
地球へのダメージを軽減しながら生き物を生かす、そんな食品を選ぶというカルチャーがひろまりつつあります。今後の食品選びにおいて、その食品がどのような使命(パーパス)をもつものかは、重要な判断基準の1つとなるでしょう。
環境を保全しながらたんぱく源を得る、ないしは、動物を生かすために存在する、そんな「代替肉」は、まさにパーパス・ドリブンな食品として近年ますます注目を浴びています。
著名人たちも投資する!フェイクミート(ヴィーガンミート)がますますパワーアップ
人口の10倍もの家畜が食肉のために殺されているという国連のデータがあります。また、2020年は、新型コロナウィルス(Covid-19)のパンデミックの影響で、人が密な環境で食肉処理・加工しなければならない屠殺場でクラスターが発生し、アメリカでも屠殺場が次々と創業を停止。食料品店が肉の販売を制限したこともあり、肉の代替品の需要が急増したとも言われています。
新型コロナウィルス感染流行を機に、ますます持続可能な社会への関心が高まる中、食糧を安定的に得る技術にも注目が集まっていますが、その中の大きな1つが、畜産を伴わない植物肉(ヴィーガンミート/フェイクミート)。ヘルスケア意識の高いハリウッドスターなどの著名人も投資している、注目のフードビジネスでもあります。
実は日本では鎌倉時代からあったフェイクミート
植物肉はその名の通り、植物性の食品で肉を模してつくられた肉。ヴィーガンミートやフェイクミートというと、海外文化のように感じるかもしれませんが、日本にも、鎌倉時代の僧により広められたといわれる「精進料理」に、植物性食材を用いたフェイクミートはすでにあったのです。当時の「肉食忌避」の思想から動物性食材を使わずに料理をしていたようで、肉や魚に近い見た目や食感を工夫していました。おでんの「がんもどき」も、いわばフェイクミートです。良質なタンパク質を摂りながら、脂肪などの摂取を抑えたり、食物繊維も摂れることで、ヘルスケアの観点からもフェイクミートは期待されています。
えんどう豆由来のプロテインや圧搾キャノーラ油、ココナッツ・オイルを原料にしたBeyond Meatの100%ヴィーガンの肉は、すでに米国やカナダの大手スーパーマーケットなどでも販売されており、サブウェイ(米国・カナダ)でも代替肉を使ったメニューを展開。米国のバーガーキングでも、一部地域でインポッシブル・フーズ社の代替肉を用いたハンバーガーの試験販売を実施したところ大人気で全国展開されました。
日本でも培養フォアグラの生産に成功
本物の肉を人工的に作る技術研究も進められています。動物の肉の細胞を培養して増やすことで作る“培養肉”が“クリーンミート”です。まだ肉1切れを作るために数百万円のコストがかかると言われますが、かつては数億円とも言われていたので、家庭でクリーンミートを食べられる日がくるかもしれません。
日本でも、「細胞農業」スタートアップのインテグリカルチャー株式会社が、2019年に世界初の「食べられる培養フォアグラ」の生産に成功しています。
5億年前から「サステナブル」な微細藻類(マイクロアルジェ)。クリーンな燃料にも
近年注目のパーパスフードの代表選手といえば、微細藻類(マイクロアルジェ)のユーグレナ。ユーグレナの和名は「ミドリムシ」。「ムシ」といっても虫ではなく、藻や海藻の仲間です。植物でありながらも、光合成をするための太陽の光を求めて自ら動き、動物が持っているような栄養素アミノ酸・DHA…)も内包しています。光合成によって増え、成長過程で二酸化炭素を吸収し、かわりに酸素を吐き出す、“クリーン”なフードです。 ビタミン、ミネラル、アミノ酸、不飽和脂肪酸など、59種類もの栄養素を含み、ユーグレナにのみ含まれる食物繊維「パラミロン」の働きにより、免疫バランス改善などの効果も期待されています。
ユーグレナは、その油脂が、地球温暖化の解決策と期待されている“バイオ燃料”の原料にもなります。ユーグレナ社は原料に使用済み食用油とユーグレナ由来の油脂を使用したバイオジェット・ディーゼル燃料を製造・販売しています。これまでにバスや配送車、フェリーなどにバイオディーゼル燃料を導入しており、先日はバイオジェット燃料を搭載した飛行機が初フライトを実施し大きな話題を呼びました。
バングラデッシュの子どもたちの栄養失調を救うために培養された
もともとユーグレナ社の創業者である出雲充氏が学生時代の訪れたバングラデッシュでは、酷暑な気候の中で貧しい環境にある子どもたちが白米しか食べることができず、栄養失調を起こしていたと言います。その解決のため、保存性が高く栄養価の高い万能な食品を探しまわり、ユーグレナの理想的な栄養バランスを知ってユーグレナ培養の事業化を決断したそうです。
ユーグレナグループは食品や化粧品など様々な商品を販売していますが、それらの商品を購入すると、その売り上げの一部で、ユーグレナ入りのクッキーをバングラデッシュの子どもたちに送る「ユーグレナGENKIプログラム」という支援活動も展開されています。
人口が増えるに連れ、地球への負荷も増大していくおそれがあります。一人一人が手に取る食品について、自然環境への負荷、ないしはメリットに思いをはせることで、ちょっとずつでもダメージを軽減できるかもしれません。パーパス・ドリブンな食の選択を心掛けたいですよね。
(齊藤 三希子さん)
齊藤 三希子さんによる、日本企業向け「パーパス・ブランディング」の教科書が誕生!
パーパス・ブランディング ~「何をやるか?」ではなく、「なぜやるか?」から考える
日本におけるパーパス・ブランディングの第一人者である著者が伝授する、日本企業が実践できる「パーパス・ブランディング」の教科書。スターバックスコーヒージャパン 水口貴文CEOインタビューも収録。
近年、広告界を中心に注目され、ムーブメントになりつつある「パーパス」。「何のために存在するのか」という、企業経営における本質であるにもかかわらず、その本来の意味を理解しきれず、どのように活用していけばよいのか、答えを出しかねている企業が少なくありません。日本において早くからパーパスについて取り組んできた著者は、パーパス・ブランディングについて次のように説明します。「個別の事象で課題を解決していくのではなく、企業や組織の根幹となる拠り所=”パーパス(存在理由)”を見つけ、究極的にはそれひとつで判断・行動をし、課題を解決していくこと」。
パーパスとは、まさに企業経営における本質であり、これからの企業にとって必須の項目。これまで海外事例で紹介されることが多かったパーパスを、日本企業が取り組めるように解説しています。
取材協力:
パーパスコンサルタント 齊藤三希子さん(エスエムオー株式会社)
株式会社ユーグレナ
(UNICORN編集部)
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